fc2ブログ

狂乱壊
荒らし・迷惑行為・中傷などはおやめください。(それらに準ずるコメント類もこちらの一存にて削除させていただきますのでご了承ください)

僕の捨てたい心の話

『僕には来ない王子様の話』の続きその②

※シャル→ウボォー表現ありますのでご注意









アジトに戻って買い出ししたものを片付けた、そのすぐ後のことだった




















「………」



一人になり、暇な時間を手に入れたカルトは、持っていた円状の鏡を眼の前に置いた。そして手に入れた散髪用の鋏を開き、自分の髪の一房を鋏の間にいれた







 ジ ャ ッ キ ン 













今まで使ったハサミの中で一番、音がうるさいな。と、カルトは思った














































「――― 何してるの?カルト」



ザクザクと鋏を入れていると、後ろから男の声が聞こえてカルトはいったん手を止め振り返った
後ろには扉のない入り口に手をついたシャルナークが立っていた
カルトの周りに散乱している髪と、カルトの持つ鋏を見たシャルナークは、カルトが何をしているのか把握したらしく、そのまま部屋の中に入ってきた



「髪の毛切ってたの?自分で切っちゃ危ないよ」

「刃物の扱いなら一通り教えてもらったから大丈夫だよ」

「いや、そうじゃなくてさ、自分で上手く切るのって案外難しいんだよ。ぐちゃぐちゃになるよ?」

「………」



確かに、この鏡だけでは髪の長さが均一になっているのか、左右対称になっているのかも自分では分からなかった
早く髪を切ろうと言うことしか頭に無くて、綺麗に切れているかどうかなど、全く気にしていなかった



「貸して。やってあげる」



そのままの体勢で考え込んでいるのが困っている様にでも映ったのだろうか
シャルナークの意外な申し出に、カルトの頭が動き始めた



「……ホント?」

「うん。自分で言うのもなんだけど、小さい頃、マチとかフェイタンの髪とかよく切ってたから上手いほうだよ」

「そうなんだ…」



確かに、シャルナークは手先が器用な人だった
自分で切るよりは幾分かマシだろうという思いもあって、カルトは持っていた鋏をシャルナークに渡した

鋏を受け取ったシャルナークはカルトの後ろに座ると手際よくカルトの髪を切っていった
シャキシャキと軽快な音がする
先程まで自分が使っていた鋏と同じものだとは思えないほどで、シャルナークに任せて良かったと、カルトは思った
カルトの髪を切りながらシャルナークが質問する



「でもいきなりどうしたの?フェイタンみたいにイメチェン?」

「………。」



カルトは何も言わない

別にフェイタンが髪を切ったから自分も切ろうと決めたわけじゃない
かと言って、本当のことを言うわけにもいかなかった






――― “女”の自分を捨ててしまいたいなどと、どうして言えただろうか






「それとも何?失恋でもした?」

「………。」



意味が分からない

失恋してなぜ髪を切るのだ


そういう風習のある国でもあるのだろうか


そう思いながらも、無表情を貫いたはずなのに、何故かシャルナークは不思議そうに眼を瞬きさせた



「あれ?図星」

「……違うよ。ただ、いい加減こんな格好やめないとな、って思っただけ」


それだけははっきりと否定して、表面上の理由だけ答えた


その後、無意識に、綺麗な刺繍の入った着物を見やる
藤の花の模様が入った綺麗な着物だった

だが、自分を着飾って、楽しいと思ったことは一度もなかった
カルトにとっては悪魔で、母が喜んだから、着飾っていただけなのだ

そんなカルトを見て、シャルナークはただ不思議そうだった



「?なんで?似合ってるよその格好」

「いや、そうじゃなくて。おかしいでしょ。男が女の子みたいな格好するなんて」



カルトの性別は初対面の人間が一見見ただけでは分からないが、幻影旅団の皆はカルトが男であることを知っている
別にそのことについてからかったりする団員はいないけれど、それでも内心は変だと思っているには違いなかった

眼の前の鏡を見つめる
まだ切り終わった訳ではないが、それなりに髪が短くなった自分がいた
それでも、女物の服装と、軽く化粧もしているせいか、映る姿は未だ少女だった

鏡を見ながら、思わず溜め息をついた



「なんでもっと男っぽい顔に生まれなかったんだろ……」

「そのうち男っぽくなるって」

「今すぐなりたいんだ」



そして今すぐ、女の子を好きになりたい

こんな気持ちは今すぐ捨てたい



そんなカルトの気持ちを知ってかしらずか、シャルナーク慰めるようにフォローしてくれる
それでも、カルトの心は暗いままだった
浮かない表情のカルトを見て、シャルナークは何故か、少しだけ懐かしそうに笑った



「思春期だねぇ。何かあったの?」

「別に……」

「俺でよければ話くらい聞くよ。言って楽になるってこともあるし」

「………言いたくない」



と言うか、どう相談すればいいのだ。こんな気持ち悪いこと
シャルナークだって困るだろう



「そう?じゃあAさんの話ってことにしない?それなら教えてくれる?」

「………。」

「………。」



言いたくない。

例えフェイタン本人ではないとはいえ、この気持ちを誰にも知られたくはなかった
特に、フェイタンと仲の良い相手ならば尚更だった


そう思ったはずだった










でも―――― 気付いた時には、口を開いていた




「……誰にも言わない?」

「言わないよ」

「……気持ち悪いって思うよ」

「思わないって」

「………。」

「………。」



話すか否か、心の中で葛藤する
口をつぐむと、シャルナークはそれ以上何も言わなかった

しばらくしてから、カルトは静かに決意を固めて、口籠もりながらも口を開いた



「………あくまで、Aの話だからね」

「分かってるって」

「……シャルってさ、」

「うん」

「衆道ってどう思う?」

「衆道?」



不思議そうにそう言うが、その反応は“衆道”の意味が分からないと言う反応ではなかった
やっぱり引いているかもしれないと思い、ちらりとシャルナークを見るが、彼は不思議そうな顔こそしているが、不快そうな顔はしていなかった
そう判断したカルトは意を決して、そのまま話を続けた



「男のこと、好きになったんだって。変だよね。Aだって男なのに」



段々小さくなっていく声を上手く拾ったシャルナークは、顔色も声色も変えることなく、真面目な素振りで納得したように頷いた



「ふーん。なるほど。それで複雑な気持ちな訳だ」



否定するでもなく、偏見の物言いをするわけでもなく、シャルナークは真剣にカルトの話を聞いていた
それだけでも、カルトにとっては嬉しかったが、沈んだ気持ちは変わらなかった

話しておいて何だが、墓穴を掘ったような気持ちにすらなった



「……気持ち悪いよね」

「いや?そんなことないよ」



シャルナークはそう言うが、とても信じられなかった
カルトの顔は、いつの間にか俯いていた



「いいよ。気なんか遣わなくたって」

「だからそんなことないって。俺も、その気持ち分かるし」


「―――― え?」




自己嫌悪に陥っていたカルトは、シャルナークが何を言ったのかすぐには分からなかった
カルトがシャルナークの言葉を理解する前に、シャルナークは構わずこう続けた









「俺、ウボォーのことが好きなんだ」





あっさりと、そう打ち明ける彼に、カルトは思わず振り返った

驚いているカルトに、シャルナークはマイペースに「ダメだよ頭動かしちゃ」と言って笑った
慌ててカルトが正面に頭を戻すと、シャルナークはまた何事もなかったかのように髪を切り始めた
だが、もはやカルトはそれどころではなかった


想像だにしなかった告白に、頭の中は混乱でグルグルと渦巻いていた
心なしか、自分の脈が早くなっている気がした



(――― シャルが……ウボォーを……?)



言われて、カルトはいつもの二人を……ウボォーギンを思い出す

ウボォーギンは旅団内でも大柄な男で、よくノブナガといる所を見かける
あまり話したことはないが、でも確かにシャルナークとウボォーギンが一緒にいるところもよく見かけた

二人で楽しそうに話しているのを何度も見て、仲がいいんだなとは思っていた
だが、シャルナークがウボォーギンのことをそんな風に思っていたなど、全く知らなかったし気付かなかった



「……シャル、あの……」

「ん?」

「………本当に?」

「うん。本当に」

「………。」

「気持ち悪いと思う?」



微笑みながら同じことを問い返されて、慌ててカルトは頭を横に振ろうとした。が、先ほどシャルナークに注意されたことを思い出して、すんでのところでとどまった
それを見て、シャルナークがまたクスクスと笑った



「……じゃあさ、シャル」

「ん?」

「その……ウボォーに、抱きつきたいとか思う?」

「思うよ」

「……キスとかしたいって思う?」

「思うよ」

「……相手が自分のこと、好きになってくれたら良いのにって思う?」

「思うよ」








シャルナークは全く躊躇なく頷いた


何の後ろめたさも、戸惑いもなく、あっさりと
























―――― 自分と同じ想いを抱いているとは思えないほど、その言葉には迷いが無かった















「――― はい。出来たよカルト」

「え?」



いきなり何の話かと思ったが、髪を切る音が聞こえなくなったことに気付いて、自分が何をしてもらっていたのかを思い出した
顔をあげて鏡を見ると、綺麗にショートカットにされた自分がいた
シャルナークが持っていた手鏡を合わせ鏡にして、後ろの髪の状態も見せてくれた



「どうかな?自分では上手く出来たと思うんだけど」



綺麗に揃えられた髪の中に、自分の顔があるのをしげしげと、新鮮な気持ちで見つめた
これほど髪を短くしたのは初めてだったし、なにより自分では男らしいのかどうかいまいち分からなかった



「……ありがとうシャル」

「どういたしまして」

「それで…、どうかな?……男っぽく見える?」

「そうだね。後は服を変えればいいと思うよ」



そう言われて、少し嬉しかった

髪を切った甲斐があったのだと思うと、自然と笑みがこぼれた



「……そっか。じゃあ僕着替えてくるね」




そう言って立ち上がったカルトの頭を、シャルナークは最後にポンポンと軽く叩いた
















「―――― ねぇカルト、別に悪いことじゃないよ。男が男を好きになるのって」


















そう言って綺麗に微笑む彼に、カルトは言葉が詰まって何も言えなかった





























―――― いったい何を、言えただろうか

















スポンサーサイト





  1. 2013/01/26(土) 14:10:24|
  2. H×H|
  3. トラックバック:0|
  4. コメント:0

  

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://destroy69.blog43.fc2.com/tb.php/445-68c58099